【電子商店繁盛記 Episode=0 】誕生日ケーキ

鬼のような会長でしたが、でも実際は誰よりも人に対する愛には溢れている。

そうでなきゃ、あんたらキチガイだーと怒鳴ったりする相手を助けたりしないだろう。

こいつら、とことん厳しくしなければ目を覚まさない。

そう思ったら、誰にどんな風に思われようが、自分の道を突き進むのが会長なのです。

今でこそ、談笑したりもしますが、ダメな時は容赦ないダメだしを食らいます。

忙しい最中、特に年度末にはミスドに呼び出されることが多かったのですが、ある時私も一緒に行ったことがありました。

その時は改札口まで行ったと思うのですが、3月の寒い夜でした。

改札口に現れた会長は、片手にケーキを持っていました。

「あさちゃん。誕生日だろ。今はひでくん(会長はそう呼びます)が買ってあげる状況じゃないからな。俺はね、特技があってね、人に聞いた誕生日は絶対忘れないんだよ」

そういって10号くらいの大きさだったでしょうか?いちごの乗ったケーキの入った箱を差しだしたのです。

そういえば、ちょっと前に私の誕生日だって話をしたかもしれない。

そして

「来年はひでくんに買ってもらいな」

と珍しく笑いました。

2人であまりの突然の出来事に、硬直して突っ立ったままの私たちでした。

「今、思えばね、良かった時のことってあんまり覚えてないんだよ。でもつらかった時にことは、よーく覚えてる。でもね、今思うとそれがかえっていい思い出なんだよ。乗り越えればいい思い出になるんだ。

会社っていうのは、水面の上に出るまでが大変なんだ。でも水面の上に出てしまえば、いい方向に回転していく。今は、まだまだ水面下だけど、若いんだ、やれるさ」

その時の改札口の風景、会長を鮮明に思い出すことが出来る。

うれしい反面、本当に乗り越えられるのかどうか、不安だった。会長の気持ちに答えることが出来るのか?

駅構内を忙しく歩く人たちを見て、何か違う世界にいるような気がした。

でもケーキは本当に嬉しかった。