【電子商店繁盛記 Episode=0 】会長がクビになった日

ようやく軌道に乗る兆しが見えてきたネットショップだったが、そんなに簡単に業績回復という訳にはいかない。

何せ背負っているものが大きすぎる。よろよろと歩けるか、歩けないかの重症患者だ。

当時背負っていた借金の多くは、会長がいた会社の資金を投入するという形で、街金、闇金などの公的じゃない借金を中心にすべて消した。まずはこれを抱えていては商売は続けられないからだ。

その他、会長の預貯金、息子さんの貯金など持っているものはすべて投入してくれた。

知らない人が聞いたら、他人の会長がなぜそこまで肩入れするのか?

誰でもそう思うだろう。

しかし会長自身も、まさか練馬の小さい電気卸店が億単位の借金をしているとは思わず、もう引き返すことが出来なくなってしまっていた。

しかし当時は会長も老舗の照明器具メーカーの一社員。すべての経理は一任されていたとしても、1つの会社にそこまで肩入れすれば、、、、問題にならない訳がない。

もちろん会長としても、うちの会社というよりも、今うちが倒れたらそれこそすべてを回収できなくなり会長の会社としても被害は甚大だ。何の計算もなくという訳ではなく、会長自身の考えがあってということもあった。とにかく、うちがまた仕事を軌道にのせて、回収できればと思ってのことだった。

しかし、それは会長の会社側からしたら到底理解されないことであった。

そして、ついにある日のこと。

夜の7時過ぎくらいだったろうか、会長からの電話だった。

「あさちゃん。ついにクビになっちゃったよ。これからは俺がお世話になる番だな。よろしく頼むよ」

会長は豪快に笑った。

私はその電話を取って、何も言えなかった。会長は私だから、明るい風に言っていたが、人一人の人生そのものを私たちが変えてしまったのだ。

どこまで行ったら、この状況の底が見えるんだろうか?

また何か、地の底に引きづられていく感じがした。

そして、会長は会社を辞めうちの会社の社長に就任した。

狭い事務所を片付けて、会長が座れる机を用意した。

そしてこれから毎日、この怖い会長と一緒に仕事をすることになる。

 

私たちは今一度背筋を正した。

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